コータリンは要介護5



クモ膜下出血を発症して六年半がたった。最初の記憶はほとんどないけれど家に帰ってきてからの闘病はボク自身はそんなに辛くは無かったかも・・・とは思う。

けれど自分の生活も、それよりも何よりも家族の生活を大きく変えてしまった。家族の苦労はボクの苦労の数十倍だと思うのだ。身体が動かないことや、痛み、記憶が消えていく恐怖、死への恐怖。色々な辛さはあるけれど、家族は先の見えない恐怖と常に戦ってくれている。それと、こんな身体になってみなければわからない車椅子での生活。今まで気がつかなかった自分を悔いる。

だからこそ、発信しなければとも思うのだ。こんなものが便利だったとか、こんな些細なことが障がい者や病気の人や高齢者には辛いんだとか、楽しいんだとか。そんなボクの思ったことを綴っている本だ。気持ちも日々浮き沈みもあり、癌という新しい病気が発見されて動揺したり・・・毎日自分の気持ちもシーソーに乗っているように揺れ動く。
ぜひ読んでみて頂きたい。

ヘボの流儀・叩いても楽しいゴルフの極意



二冊目は、木村和久さんの『ヘボの流儀・叩いても楽しいゴルフの極意』(集英社インターナショナル)。

ボクはこの筆者の木村さんともう30年前ぐらいにプロアマのツアーを回ったことがある。それから木村さんはきっとゴルフを真剣に取り組んでいまや憧れの80台も出せるほどの腕前になってボクとは大違いだ。どう考えても真面目に取り組んだんだろうなと思う。そして、それまでの長い道のりにはゴルフをはじめてから何百回もゴルフ場に出向いて物書き特有の人間観察をしたに違いない。パターの力加減を百回練習して頭の中にイメージするのと同じようにゴルフ場でのおじさんたちの言い訳や、他人のヘタップリを観察していたに違いない。

そんなゴルファーならではのあるあるを小気味に描いている。同伴プレーヤーの不正を見つけたらどうするか?とか、女性と一緒のゴルフは本当に楽しめるか?とか、ゴルフ中のトイレ問題の対処法まで、おじさんゴルファーが遭遇するであろう場面を切り取っている。思わず「プッ」と吹き出してしまうものから、「まじか!」と発見があったり。ぜひ自分と照らし合わせて楽しんでほしい本である。

たまもの



三冊目は、神蔵美子さんの『たまもの』(ちくま文庫)。神蔵さんという人はあたたかい眼をしている。聖母のようでもある。末井昭さんのパートナーと聞いただけで只者ではないと思ってしまうが、数回会ってみるとこの人の才能にやっぱりなあと頷く。

出会いは、「雪子の部屋」という神蔵さんが撮った短編映画の試写会だった。映画を見終わったあとの打ち上げパーティーにまでお邪魔したのだがそこで出会った神蔵さんは今まで出会った女性とは全く違う生き物のように見えた。同じ世界に生きていないような感じさえした。ボクが、大きな水入りの金魚鉢をさかさまにかぶってみているような、近くにいるのに握手もできるのにその世界は遠く離れているようなそんな感じがしたのだ。

そんな神蔵さんの生き様を描いたドキュメンタリー、そんな本だ。前夫と別れたあと末井さんと暮らし始めて、しかし元夫とも「特別な関係」としてお互い承知で二重生活を送ったという。元夫がどんどん有名になっていき新しい恋人も出現する。個性の塊のような二人の男の間で揺れ動く自我。写真家である神蔵さんのそのときそのときの写真と気持ちが生々しく綴られている。やっぱりこの生き様をみていたら、あの神蔵さんに出会った時に感じた「なにか」も納得できる。その人生を経てきたからこそのオーラだったんじゃないかなと、納得した。


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