ボクは風呂があまり好きでなかった。小学生から大学までずっと水泳の選手で朝から晩までずっと水の中にいるような生活をしていたのだ。なぜそれに加えて風呂まで入らなければいけないのかわからなかった。
けれど、社会人になってプールからも遠のいて子どもが生まれてからは、また違う風呂の楽しみを見つけて楽しんでいた。2歳の息子が小さな椅子に座って足の上にタオルを置いて石鹸をつけるボクのやり方と同じ方法であわ立てているのを見てとても嬉しかった。子どもと風呂に入るのは話も弾み、遊んでいるのか、清潔を保つつもりなのかわからないことも良くあったけれど楽しい思い出だ。
だから新築のとき風呂はみんなでは入れるように大きく作ってタイルも選びに選んだ。
まさか子どもが大きくなってしまってからもその大きな風呂が役に立つとは思っても見なかった。病気になって動かない身体で風呂に入るのは容易なことではない。
車椅子から風呂用のタイヤの付いた椅子に乗り換える。その椅子の上で身体を洗う。そして、リフトつき(介護保険でレンタル)の湯船で風呂に浸かる。風呂の端に座れば足を湯船の中に入れてくれる。そうすればリフトが身体を沈めてくれる。なんとかこれがあるおかげで家族の力だけでいつでも風呂に入ることができる。でなければ、入浴の業者にお願いするか、デイサービスに行くしか風呂に入ることはできないだろう。
家族もたいへんだろうと、「お風呂入ろう」といわれてもいいと首を横に振る。「きっと気持ちいいよ」
そういわれ、入れば決まって入ってよかったと思うのだが。湯船に浸かっている間は固まってしまった足も動かない体もお湯の中で昔のように自由に感じる。身体が楽になる。フワフワ身体から力が抜ける。唯一自分の身体が自分のものに戻る瞬間だ。
将来何かの液体で身体がふやけないようにできるようになれば、風呂の延長線上のような寝ていられるベッドっていうのができるに違いない。褥瘡(じょくそう)なんかもできないしフワフワ温かい水の中で寝ていられるのだ。寝たきりの人によさそうだ。特許でもとっておこうかな。