みなさんは、バリアフリー用のトイレに入ったことはあるだろうか。
「バリアフリー」と聞くと、ちょっと広めの個室に手すりがついているだけのトイレを思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし近年、「多目的トイレ」と呼ばれる空間が増えてきた。赤ちゃん連れの方やファミリー層、着替えを必要とする人のために、着替え用の台まで設置されたトイレもある。オストメイトはしかり。設備が進化しているのは確かだ。
だが、ここで考えたいのは「誰のための“多目的” なのか」ということだ。
例えばボクが使える多目的室とは、大人用のベッドのある場所でなければ、30%も用を足せない。その感覚は、赤ちゃん用のベッドのサイズが合わなくなってしまった子どもや、障害を持つお子さんと暮らす家族でも同じだ。赤ちゃん用ベッドだけでは用が足りないのだ。
何度も原稿に書いてきたことだが、同じ車椅子乗りの友人ですら『なんでベッドが必要なの?』と聞いてきたことがある。普通はわからないのだ。あたりまえだ。当事者になってようやく感じる。オムツを交換したり、さまざまな器具を外したりする工程は、使ったことのない人には想像しづらいのだろう。
最近ではサービスエリアのトイレには多目的室がほぼ完備され、あたらしいショッピングセンターのトイレにもベッドが設置されている例が増えてきた。だが、その数はまだまだ十分ではない。障害を持った思春期のお子さんの移動にはボンボンベッド持参で車移動していると言う話も聞いた。
そんな中、2026年2月、東京都が公共施設のバリアフリートイレに「介助用ベッド(ケアベッド)」を設置するための支援を強化する方針を示したというニュースが報じられた。東京都は設置にかかる費用を全額補助するなどの支援策を打ち出し、介助用ベッドの普及をさらに進めていく計画だという。
このニュースを見たとき、ボクは「やっとここまで来たか」と感じた。だがこれは自治体の施策であり、国全体の義務化や標準化にはまだ遠い。それだけに、現場の声が少しずつ行政に届いてきたことには大きな意味がある。
しかし、多目的室の本来の目的とは違う使われ方が問題になることもある。長時間居座る人がいるというのだ。もちろん、化粧直しや身だしなみのために短時間使うことは誰でも使えるトイレなのだから問題ない。だが、本来助けを必要としている人が使えないケースが生まれていると聞くと、やはり設備のあり方を考え直したくなる。長居が問題となる。数人で入りあれこれ用を足す。
そこで私は以前から提案している。外に「あとどれくらい時間がかかるか」を知らせるシステムを取り入れてほしい。
「次の人が使うまで何分」という目安があれば、ベビーカーの親も、車いすの人も、「上の階まで行ったほうが早いのか」という迷いを減らせるはずだ。
実は今月、私は石川県に復興の実態を見に行こうと思っている。震災からの歩みを肌で感じ取り、地域ごとのバリアフリー状況も見てきたいと考えている。しかし、石川県でバリアフリートイレにベッドを設置する話が進んでいるとは、今のところ聞かない。各地での状況はどうなのか。行政はどこまで理解し、どこまで支援しているのか。現地で直接、関係者の声を聞いてみたい。
多目的トイレは単なる広い空間ではない。助けを必要とする人の生活の一部であり、外出のハードルを下げる大切な場所だ。
トイレの中にあるベッドは、便器の横に置かれた「設備」ではなく、人の尊厳と安心を支える「場所」そのものなのだ。
そのことを、微力ながらこれからも書き続けていきたい。
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