まるで民族大移動だなと思った。息子夫婦、5歳・3歳・0歳の孫たち。そして90歳の義母、ボクら夫婦。総勢8人。本当に飛行機までたどりつけるのか?まずは成田までの道のりを心配する。
目的は、娘の結婚式だ。晴れの日を迎えるためなら、多少の大騒動なんてものは笑い話に変わる。とはいえ現実の移動は、笑い話どころかサバイバルである。
大荷物が山ほど積みあがり、ボクは車椅子、義母も短距離は歩けるものの、基本は車椅子での移動になる。
0歳のベビーにはベビーカー。5歳と3歳は、目を離せば空港の向こうまでダッシュで消えていきそうだ。
手は常に誰かを掴んでいないといけない。振り返る度にフォーメーションがかわる。
それでも、家族の旅というのは不思議で、疲れの中に笑いがあって、笑いの中にちょっと感動まである。今回選んだのは、ANAのフライングホヌ。でっかいウミガメの塗装のA380。成田からしか飛んでいない。
ハワイ線専用機として有名だけれど、ボクらが目を輝かせたのは「カウチシート」だった。
今回はそれを使用するため成田まで出向く。
カウチシートというのは、エコノミー席の3席や4席が横一列で“ソファーベッドのように変身”する特別席。
足元に板を倒してつなげるとフラットになり、まるで簡易ベッドのようになる。
子どもたちはゴロゴロ転がれるし、大人も足を伸ばして横になって眠れる。家族旅行でこれほどラクな席はなかった。今回は8人で、なんと“11席ぶん”を確保した。民族大移動は、席の確保からスケールが違う。
フライトが始まると、5歳児はさっそくカウチの上でハワイまでの地図を見ている。3歳児アンパンマンを鑑賞。0歳のベビーはチャイルドミールの袋をカサカサ鳴らして、同じくチャイルドミールをもらった兄たちより存在感を主張する。
今回は特別食もずいぶん前からお願いしていた。ボク用にはフルーツミール。
子どもたちにはチャイルドミール、ベビーには離乳食。
フライト中、ギャレーには「ご自由にどうぞ」と、小さなお菓子や飲み物がならんでいた。
ソファのある授乳や泣いた子どもを避難する小さな部屋もある。この“開放されている感じ” がハワイ行きの空気をつくっている。
このコーナーは、子どもたちがちょろちょろ動き、泣いている子も、笑っている子もいる。機内のこのコーナーは、いわば“子どもたちの安全地帯”。ちょっと泣いたって、誰も眉をひそめない。むしろ「わかるよ、その気持ち」と、知らない大人同士が目で会話する。
旅って、こういう一体感があるから面白い。
ボクは横になりながら、ふと思った。
ハワイに向かって飛んでいるのに、なぜか“ハワイより大切なもの”がすでにここにある。
家族だ。人生で一度あるかどうかの大移動。
娘の結婚式という人生の節目を、みんなで迎えにいく。
誰かが走り回り、誰かが泣き、誰かが眠り、誰かが笑っている。
この“ごちゃごちゃ感”が、家族そのものなんだ。90歳の義母は窓の外の空を眺めながら「私もハワイにまた来ることになったねぇ念願の結婚式に来れた」と、嬉しそうだ。
旅は、誰にとっても生きる力になる。義母はいつもより食欲もあるみたいだ。
カウチシートで横になりながら、ボクも自然と目を閉じた。飛行機のエンジン音は、波の音に似ている。もうすぐハワイ。
娘の新しい人生の幕開けだ。
ボクら家族の思い出もまた、ひとつ増える。
民族大移動は、けっこう悪くない。むしろ、こんな旅なら何度でもしてみたい。おまけに機長さんから孫たちはシールまでいただけた。出発前の操縦席から手を振ってもらえ、降りたとき偶然出会えたのだ。「飛行機たのしかった?」と声をかけてくれた。良い思い出になった。
RCCコラム