ボクの妻の毎日は、綱渡りだ。いや、綱渡りというよりは、炎の輪くぐりかもしれない。
自分の両親と叔母の面倒をみながら、ボクの世話もしている。しかも、それぞれが勝手な都合を抱え込み、妻に向かって一斉に「今すぐ助けろ」と手を伸ばしてくる。人間関係の雑技団みたいなもんだ。
父親は施設にいたが、胸が苦しいと訴えて通院した。担当医は「このまま帰すより入院した方がいい」と冷静に言う。だが父は頑固だ。「絶対に入院なんかしない!」と子供みたいに駄々をこねる。妻は「わがままもいい加減にして!」と声を荒げるが、その裏には一抹の理解もある。前回の入院で怖い看護師さんに当たり、すっかりトラウマになってしまったのだろう。一方、叔母は1人で入院している。心細さに耐えかねて、妻のスマホに電話をかけまくる。「いつ来るの?」「今日来るの?」と。けれど妻だって病院通いがある。体はひとつしかない。ついに「もうどうにもならない」と頭を抱えた。
そんな時に紹介されたのが“自費ヘルパー”。保険はきかないが、まさに痒い所に手が届く存在だ。父の採血やレントゲンの待ち時間に付き添ってもらい、妻はその間に自分の病院を済ませる。そして診察結果を聞く時間に、ピタリと駆けつける。まるで影武者を雇ったような戦術だ。3時間で1万円。高級ディナー1回分だが、妻にとってはご馳走よりずっとありがたい投資らしい。
考えてみれば、今の時代、介護や看病の正解は「家族が全部抱え込むこと」ではなくなっているのかもしれない。お金はかかる。けれど、その分だけ妻の心と体が守られる。倒れてしまえば元も子もない。彼女が安心して呼吸できる時間を確保することが、何よりも大事だ。時間的にできない時はどうしているのか。妻は自分の診療を延ばすしか彼女の頭にはなかった。
しかし、いつも後回しの彼女を知っているから今回は自分のことも考えた方が良いと伝えた。それにしても、こんな状況の人は日本中にどれだけいるんだろうか。ボクらの家庭だけが特殊じゃないはずだ。仕事を持ちながら、親の介護をし、自分の体調も抱える。三つ巴、いや四重苦の板挟みにあう人たち。ニュースでは数字で語られる「老老介護」「8050問題」なんて言葉があるが、その現場は生々しい。
タグ:介護
RCCコラム