
6月15日で終了してしまったがずっと余韻が残っている展覧会がある。
世田谷美術館の一角世田谷区民ギャラリーで開かれていた「VR福祉ジャーニーin 世田谷」。
僕も、車椅子に乗ったまま、ハワイに、アフリカに、富士山に...旅をしてきた。
旅と言っても、VRゴーグルをかけてその場に座っているだけ。
でも不思議なことに、確かに「行った」気持ちになる。目の前に広がるサバンナの草の揺れ方がリアルすぎて、ライオンの横で一緒に昼寝しているような錯覚さえあった。ああ、もう歩けなくても、こんな風に旅ができるんだなあ、としみじみ思った。
この企画を手がけたのは、登嶋健太さん。
福祉の現場からVR業界に飛び込んで、東京大学でVRの可能性について色々研究もされてきた。
今では「VRで旅する」をライフワークにしている人だ。今後の活動も追いかけたい。
映像はもちろん、その人の記憶に触れるような場所や景色を丁寧に選び、体験する人が「気持ちよく旅できる」ように工夫してある。
実際、近くのデイサービスの高齢者たちが職員と一緒に来たり、小学生が社会科見学なのか、たくさんで訪れたりで大盛況だったよう。
みんな笑顔で旅していたのが印象的だった。
展示室の雰囲気もまたよかった。
壁には、空や海、山の写真が飾られていて、プロジェクターではライオンや象や海亀の姿が映し出されている。
視覚だけじゃない、空気ごと旅に引き込まれるような空間だった。
気づいたら、周りでゴーグルをつけていた人たちが、終わったあとにぽつりぽつりと話し出していた。
「昔、行ったことあるのよ、ハワイ」「ああ、富士山ってやっぱりいいね」
そうやって、旅の記憶が言葉になっていく時間も、とてもよかった。
一緒に「ペーパードーム」の展示もあった。
紙で作られた半円球のプロジェクターだ。
ずっと長くみていられる。やはり、自分がそこにいる感覚になれる。
今回のVRも、本物の気持ちが動く旅だったと思う。
実際に行けなくても、旅の感覚は取り戻せる。
心がふわっと外に向かえば、それで十分旅なんだと、教えてもらった。
展示はもう終わってしまったけれど、きっとまたどこかで開催されるだろう。
もし見かけたら、ぜひ、試してみてほしい。
誰かと一緒に、本物の旅に出たくなるから。