「ああ、やっちまった」まただ。階段を降りるためのリフトで転倒してしまった。
我が家の外階段のリフトは、たまに駅の売店に重いジュースなんかを運ぶために使う階段を一段一段登っていくロボット、あれに似ている。
ボクをそのリフトの椅子に座らせて、階段を一段一段上り下りする。その階段昇降機(リフト)を動かすためには講習会もある。ちゃんと機械を理解して動かすのだ。我が家では、妻・息子・娘が講習を受け、さらにヘルパーさんをケアマネも講習を受けてもらった。もう5年ぐらい前のことだ。そして運転の許可をいただいた。
それなのに、以前我が家でも1度リフト使用中に倒して怪我をした。危ないよね、と誰もが心配する。けれども外に出るためにはそれ以外今の所方法がない。
2ヶ月前ぐらいか、メーカーの方がきて大きい事故があった旨の報告と、それでも使うかの確認。ヘルメット着用は必須になり可愛らしいヘルメットも無償提供された。機械も点検され、妻の操作について再度説明を受けた。
でもまた怪我をしてしまった。今回は、階段上の玄関前のポーチで、車椅子からリフトに移動させるときによろけて転んだ。リフトのせいではない。ボクと妻の息が合わなかったのだ。ヨロっとしたらぼくは、リフトの足元に尻餅。妻はボクを思いっきり庇ってスローモーションで地面に下ろしたので降ろすや否や前の壁に激突した。頭がごつんと大きな音をたてた。勢いはついているから相当な衝撃だと思う。
まあ、ボクはへルメットをしているけれど、妻はもちろんしていない。音と共に妻がうずくまる。相当痛かったに違いない。
「大丈夫か?助けを呼ぶか?どうすればいい?」しばらく動けない妻。それでも「うううう、大丈夫パパ?」ボクを心配している。「おかげさまでボクはうまい具合に着地できたよ、大丈夫。君は立てる?痛いんだろう?」そう言いたかった。痛くて声も出せないでいたのだ。心配をよそに立ち上がった妻がボクを持ち上げようとするが一回地面に寝っ転がってしまったボクを一人で起き上がらせるのは至難の業だ。しかも妻は今の転倒でどこかを痛めている様子。痛いのだ。ボクを起こすなんて。
妻は、もう11年のもの長い付き合いになるヘルパーさんの緊急24時間呼び出しシステムのボタンを押した。「どうしました?神足さん」「すみません、裕司をリフトに乗せようとして滑って玄関前に転倒させました。起こすの手伝ってもらえませんか?」「わかりました10分ぐらいでいけると思います」これで何とかなる。一安心だ。本当にほっとした。
この24時間緊急システムは、自宅で介護が始まるときに「何かあったら夜中でもきてくれる」という業者を探してそのために選んだ業者だった。
「いつでも呼んでくださいね、他のご家庭では夜中におむつ替えで呼ばれたこともありますよ」これを契約しているのは安心を得るためだ。いつでも頼れる。そんなボタンだ。でもこの10年で使用したことはなかった。
このボタンを押して頼れる相手がリモコンの向こうにいることを実感した。
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