岩永 哲

季節が進み、暖かくなると変わる雨の降り方…。ことしも大雨に警戒が必要な時期となってきましたが、気象庁は6月1日から「線状降水帯予測を開始する」と発表しました。

線状降水帯予測の開始について(気象庁)

過去、広島をはじめ、全国各地に記録的な大雨を降らせている「線状降水帯」。去年、気象庁は、線状降水帯の「発生」を伝える情報の提供をスタート。そして、出水期に入ることし6月から始めるのが「半日前の予測発表」です。


★情報を受ける上で知っておきたいこと
これまで予測が難しいとされていましたが、なぜ今回、予測が可能となったのでしょうか。また、本当に半日前に予測を発表することはできるのでしょうか。今回始まる情報の内容と注意点についてみていきます。



★「線状降水帯」に予算を集中投入
最近の甚大な豪雨災害では、必ずといっていいほど聞く線状降水帯。西日本豪雨や広島土砂災害など広島でも甚大な被害が出た豪雨で発生が確認されています。特に、おととしの熊本県の球磨川が氾濫して多くの犠牲者が出たケースでは、当時の気象庁長官は、「通常の大雨警報を超える災害の可能性が極めて高い状況と想定できていなかった。われわれの実力不足」と認めましたが、その後、予算を重点的に投入し、取り組みを強化しています。



★「観測の強化」「予測の強化」「情報の改善」
まず、力を入れているのが「観測の強化」線状降水帯の原料となる水蒸気の流れ込みを正確に捉えることが、予測の精度向上に直結するためです。去年、呉の灰が峰にある気象庁レーダーで新型レーダーが設置される様子をお伝えしましたが、全国のレーダーで順次新型への更新作業が進められています。また、全国のアメダス観測点に湿度計の設置を進めてるほか、海上での観測なども強化しています。


「予測の強化」は、スーパーコンピュータによる計算モデルを改善して精度を上げるほか、世界一の計算速度を誇る「富岳」を使った予測にも取り組みます。

そして2つの成果を「情報の改善」に結び付けて、「より前の段階から、より詳しい発表すること」を目指しています。


★6月1日から始まる「半日前の予想」
気象庁の線状降水帯への取り組み強化は、10年スパンの計画で行われています。去年、始めた発生情報に続いて、ことし6月からスタートするのが、「半日前」からの予測情報です。



では、「半日前の予測」は、どのような形で発表されるのでしょうか。



★発表は大雨に関する気象情報の中で
こちらが、半日前の予測の発表イメージです。


気象庁は、大雨などが予測されると、全国や地域、都道府県単位で事前に気象情報を発表して警戒・注意を呼びかけています。「大雨に関する気象情報」といったタイトルの情報で、見聞きしたことがある方も多いと思います。予測は、その気象情報の中で、線状降水帯の発生する可能性に言及する形で発表されます。

最も早ければ半日前の段階で、それよりあと、例えば6時間前に線状降水帯が出るかもしれないとわかった場合でも、その時点で線状降水帯のキーワードを入れた気象情報が発表されることになります。

すでにある発生情報のように「速報」として出す情報とは少し性格が異なる情報です。



★予測範囲は全国11ブロック対象
予測エリアは、全国を11のブロックに分けた範囲です。広島だと「中国地方」に含まれます。


これだとザックリと広くて、もっと範囲を絞って発表してほしいと思う方も多いかもしれません。去年、気象庁が発生情報が出た地域に住む住民や全国の自治体を対象に行ったアンケート結果では、▽対象地域をもっと具体的に、▽もっと早いタイミングで発表してほしいといった声が目立っていました。



★すべてを予測できるわけではない
ただ、現状では、範囲を絞って細かく予測するほどの精度はありません。さらに言えば、全国11ブロックに分けたような広い範囲だとしても、すべてを予測することはできないといいます。


こちらは、去年、全国で発表された「線状降水帯の発生情報」の一覧です。9事例・17回ありましたが、このうち、6月から始まる「半日前の予測発表」ができたケースは、2つの事例に限られるといいます(ピンク色の部分)。

いずれも去年のお盆時期に降った大雨ですが、それ以外では、現状では難しい、というのが気象庁の見解です。

では半日前に予測できる・できないは、何が違うのでしょうか?



★予測の難しさは現象のスケールで異なる
予測の可否を分ける要素の一つは、大雨を引き起こす現象のスケールの大きさです。



去年のお盆のような、梅雨(秋雨)前線に伴って広い範囲で大雨となる場合、地方レベルのわりと広域であれば、線状降水帯が発生して大雨になる可能性があるかどうかを予測できる場合があります(県や市町レベルでは困難)。



一方で、島しょ部や局地的に発生した場合など、ごくせまい範囲で起こる現象は予測が非常に難しくなります。


最近の広島の事例でいえば、去年のお盆の豪雨や2018年の西日本豪雨のように梅雨(秋雨)前線による広範囲な大雨であれば、半日前の予想が発表されそうですが、2014年の広島土砂災害のような、ごくせまい局地的な場所を襲った線状降水帯では予測の発表は困難だったかもしれません。



★7年後には半日前の「ピンポイント予測」を目指す
正直、多くの人が期待しているほどの予測精度がないままで始まる感が否めない、6月1日からの半日前の予測発表…。ただ、気象庁としては、走りながら精度を高めていくのだと思います。


気象庁は、早めの避難につながる「事前予測」(半日前の予測)と、差し迫った危険から身を守るための「直前予測」という2つの時間軸をもって、予測を強化しようとしています。



そして7年後(2029年)には、線状降水帯の発生によって、どこが、いつ危険となるかをピンポイントで半日前に発表することを目指しています。土砂災害や洪水など災害の危険度を5段階のレベルで示す「危険度分布」を利用して発表したい考えです。

実現するには相当ハードルが高いような気はしますが、頑張ってほしい取り組みです。



TOP