岩永 哲

 
 お盆時期の異例の大雨で、広島では2度の「大雨特別警報」が発表されました.1回目は8月13日に広島市を対象に、2回目は翌14日に広島市と廿日市市を対象に出されましたが、気象庁によると、去年までなら2つのケースともに広島で特別警報が発表されることはなかったといいます.去年までとことしでは何がどう違うのかについてみていきます.


 
 ことしの夏は大雨に関連する気象情報や避難情報が大きく変わり、「大雨警戒レベル」の変更や「線状降水帯発生情報」の新設などは大きく注目され、ニュースや天気コーナーでよく見かけたのではないでしょうか.そんな気象情報の変更の中には「大雨特別警報」発表基準の改善というのもありました.これが今回、広島で2度の大雨特別警報が発表されたことにつながっています.


 大雨特別警報のうち、土砂災害を対象にした大雨特別警報の基準が6月から変更されました.

 従来は、5キロメッシュのブロック毎を基準に、「短時間雨量(3時間雨量)」や「長時間雨量(48時間雨量)」及び「土壌の水分量」が「50年に一度レベル」の値となることが発表の条件とされ、10ブロック以上(短時間雨量の場合)が基準を満たせば特別警報が発表されていました.従来の基準であれば最低でも15キロ×15キロ程度のエリアが必要で、「ある程度の広さ」がなければ発表できませんでした.


 
 一方、ことし6月からはもっと細かい1キロメッシュが採用されています.それぞれのブロック毎に「土壌の水分量」が、過去にその地域で大きな被害が出た大雨時に相当する値が決められていて、その値を満たすブロックが10以上現れて、かつ激しい雨(概ね1時間30ミリ以上)が今後も続くと予想された場合に特別警報を発表するようになりました.新旧2つの基準の図を見比べてもわかるように、新たな1キロメッシュの基準では、5キロメッシュのブロック一つ分にも満たない狭いエリアであっても特別警報が発表できるようになり、かなり局地的なエリアを対象とした特別警報の発表が可能となりました.


 大雨特別警報が改善されるきっかけの一つは、2014年に起きた広島土砂災害です.線状降水帯によって1時間100ミリを超える猛烈な雨が降って土石流が頻発、77人が犠牲となりましたが、そのエリアが広島市安佐南区と安佐北区のごく一部に限られたため、当時の基準では「大雨特別警報」を発表することができませんでした.同じような課題はその前年に伊豆大島で起きた豪雨災害でも表面化していて、新たな発表基準では、こうした課題はある程度改善されています.それを踏まえて、今回、広島に発表された2度の大雨特別警報の中身を見てみます.



 
 1回目の発表となった8月13日(金)は、午前7時の段階で危険度分布(土砂災害)には警報レベルの赤色までしか広がっていませんでしたが、線状降水帯による非常に激しい雨が降ったことで急激に危険度が上昇.午前8時には、極めて危険を示す「濃い紫」のエリアが一気に拡大しました.

 気象庁によると、午前8時10分に広島市安佐北区の中でも北広島町との境に近いエリアで、特別警報の基準を満たすブロックが8つ現れ、午前8時20分には24ブロックに広がりました.発表条件の10ブロック以上となり、線状降水帯も確認されていたため、気象庁は午前8時45分、ブロックが現れていた安佐北区がある広島市に大雨特別警報を発表しました.

 その後、正午になると特別警報の基準を満たすブロックはなくなったことから、午後1時に広島市の大雨特別警報は大雨警報へと切り替えられました.1回目の特別警報では、基準を満たしたブロックの数は最大で57ブロック(午前8時50分)で、これはおおよそ8km×7kmほどの狭いエリアでした.もし従来の5kmメッシュの基準なら2つほどのブロックにしかならず、広さの基準に達しなかったために特別警報が発表されることはありませんでした.



 
 2回目の発表となった8月14日(土)はどうだったでしょうか.この日は14日に日付が変わる頃からすでに、すでに特別警報の基準を超えるブロックが現れており、午前中は発表条件である10ブロック以上が基準を上回る状態が続いていたといいます.ただ、すぐに特別警報が発表されなかったのは、午前中には1時間30ミリ以上の激しい雨を観測しておらず、もう一つの条件である「激しい雨が今後も続くと予想される」状況を満たしていなかったためです.

 しかし、昼前後になると、広島市内でも所々で1時間30mm以上の激しい雨を解析するようになります.特別警報の基準を満たすブロックも数百と急増したことから、気象庁は午後0時41分に広島市に、午後3時25分に廿日市市に大雨特別警報を発表しました.基準を満たしたブロックの数は最大で約900(午後8時)に達しました.これは単純計算では1回目の特別警報で基準を満たした最大の広さ(57ブロック)に比べてて、15倍程度広いエリアで基準を超えていたことになります.2つの市への大雨特別警報が大雨警報へと切り替えられたのは翌日の朝になってからでした.

 今回、県内各地で大きな被害が出ている状況からすれば、大雨特別警報の基準が改善されたことは妥当だったように思えます.この夏の基準の変更は、「50年に一度レベル」という雨量に重きを置いた基準から、より災害の危険度を重視した方向になったのかなと感じています.今回の広島のケースに関していえば、それなりに実態を反映できていたのではないでしょうか.

 一方で、気になることもあります.それが特別警報を出す範囲についてです.特に1回目の特別警報では、できればもう少し対象エリアを絞って発表することができればという点です.先に見てきたように、1回目の発表で基準を満たしたのは安佐北区の非常に狭いエリアです.ただ発表は広島市という形のため、大して強い雨が降っていなかった広島市中区でもスマホの通知が鳴り響き、「なんで特別警報?」と感じた方も少なからずいたのではないでしょうか.面積の広い広島市のような市町村では、この夏から土砂災害警戒情報が区ごとの発表に変わったように、せめて区ごとの単位で発表してもいいかもしれません.


 早ければ来年度、気象庁は「危険度分布(土砂災害)」の5段階のレベルに大雨特別警報の基準を取り込む予定だといいます.現状で「紫」は、「濃い紫(極めて危険)」と「うすい紫(非常に危険・大雨警戒レベル4相当)」がありますが、この2つの紫を一つにまとめて、5段階の一番上に「黒(特別警報基準に到達・大雨警戒レベル5相当)」にする方向です.これによって危険度分布を確認すれば、どこが特別警報発表の対象エリアがすぐにわかるようになることが期待できます.

 これによって危険度分布(土砂災害)の5段階の表示と大雨警戒レベルの5段階のレベルが直接紐づくのでわかりやすくなりそうです.ただ、その上で忘れていけないのは、大雨特別警報が出る前には身の安全の確保が終わっていることが大前提という点です.「特別警報を待たずに避難行動を終えていないといけない」ことはくれぐれもお願いしたいと思います.



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