岩永 哲

 
 きょうは西日本豪雨から3年.あの日、イマナマやニュースの天気担当で出演していましたが、午後からだんだんと悪化する危険度分布を伝えていたことを思い出します.午後6時以降、広島県内では土砂災害、洪水、浸水のいずれの危険度分布でも極めて危険な状況を示す「濃い紫」が一気に広がりました.ただ、その時点ではあれだけの被害となることは想像できていませんでした.

 全国ではこの3年の間にも毎年大きな災害が繰り返されていますが、中でも3日前に熱海で撮影された土石流の映像はかなり衝撃的でした.

 西日本豪雨や2014年の広島土砂災害でも、土石流が発生したあとに大量の水が濁流となって道路を流れ下るような映像は色々と見ていましたが、今回、建物をなぎ倒しながら住宅が広がる斜面を突き進む土石流の様子は個人的に見るのは初めてでした.

 知識としては頭の中にあった土石流の特徴が、映像として捉えられており、あらためて土石流の凄まじさを感じずにはいられません.


 
 今回、熱海で起きた土石流で流出した土砂の量は、現時点の推定で約10万㎥と推定されています(その後、県は約5万5000㎥と発表)
 
 過去に広島県内で起きた土石流での土砂の流出量と比較すると、
 ・坂町小屋浦(西日本豪雨)
   約7万9000㎥、
 ・安佐南区八木地区の県営住宅付近(2014年広島土砂災害)
   約3万3000㎥
とされていますが、これらと比較しても、今回熱海で起きた土石流の規模が大きいことがわかります.

 一般的に土石流の土砂は、斜面の傾きが3度より緩やかになると、そこで止まるといわれていますが、
今回の熱海のケースでは崩れた所から海のすぐ近くまで、わりと急な斜面が続いていたので、土石流は途中で流れが止まらずに、海までのおよそ2kmを流れ下ったようです。


 
 上の動画は広島土砂災害における安佐南区八木地区の様子ですが、こちらのケースではJR可部線が走っている付近で、斜面の傾きがおよそ3度より緩やかになるために土砂の流出はそのあたりで止まったとみられています.


 
 今回の熱海での土石流は、盛り土との関連性など被害を拡大させた原因についてまだ不明な点もありますが、今回、撮影された映像には一般的な土石流の特徴を示す部分もたくさんあります.これまで繰り返し土石流の被害を受けて、危険エリアが数多く存在する広島の人にとって教訓にしてほしいポイントが色々とあるので、そのうち3つのポイントを紹介します.
 
 まず一つ目は、土石流は「起こってからでは逃げきれない」という点です。

 上の動画は土石流の速さがわかる映像をいくつか集めたモノです.一般的に土石流の速さは時速20~40km/h程度とされますが、上流部ではもっと速いこともあります.そして大量の水が押し寄せるのではなく、途中で岩や木、破壊された建物の破片などを巻き込みながら、自動車並みのスピードで下っていきます.


 
 そのため、山の上流で起こってからふもとの住宅地までやって来るのに場合によっては1分もかからずに到達します.土石流が起きてから逃げても基本的には間に合いません

 最近、よく大雨の際に「垂直避難」といったことも紹介されますが、土石流に関していえばたとえ2階にいたとしても非常に危険です.映像の通り、木造住宅などでは直撃すれば建物全体が破壊されます.土砂災害、特に土石流に対しては、「危険エリアからは逃げて安全な場所まで移動すること」が避難の基本と強調されているのはこのためです.


 
 二つ目のポイントは「下に逃げてはダメ」という点です。

 今回の熱海で撮影された映像では、土石流が流れたあとが残る道路を車が下におりていったすぐあとに新たな土石流が押し寄せる様子が捉えられています(撮影地点➁の映像)

 土石流が発生する前に危険な場所にいないことが基本ですが、もし危険なエリアにいた場合は
横方向へ移動し、少しでも高い所に逃げるべきです.


 
 そして三つ目のポイントは、土石流が起こるのは「一度だけではない」ということです.

 熱海の撮影された上の動画(撮影地点➀)では、すでに土石流で大量の土砂が堆積している状況で、さらにその上を新たな土石流が流れ下っていく様子がわかります.


 
 また➁よりさらに下流を走る国道135号線で撮影された映像や画像(撮影地点③)では、最初は車が通れていた状況から段階的に土砂が流れ込んできた様子が記録されています.報道によれば、現地では、➀午前10時30分前、➁午前11時前、③午後1時前 の少なくとも3回にわたって起こったとれています.こうした何度も起こる特徴は、過去に広島で起きた土石流でも確認されています.例えば広島土砂災害で県営住宅を襲った土石流は少なくとも3度起こったとされています.


 
 大雨になると雨量ばかりを気にする人が多いですが、例えば同じ「48時間雨量400ミリ」でも、「広島にとっての400ミリ」と「高知にとっての400ミリ」では危険度の意味合いは大きく異なります.そこで土地によって異なる災害が起こるかどうかの基準を考慮した上で、災害のおそれを示しているのが「危険度分布」です.

 今回、熱海市のケースでの「土砂災害危険度分布」をみると.災害発生の6時間前の時点ですでに極めて危険な状況を示す「濃い紫」エリアが広がっています.この「濃い紫」は大雨によって、過去にその場所で重大な災害が起きた時に匹敵するような危険な状態にすでに実際に達している状況を示しています.(「土砂災害警戒情報」発表基準に実況で超えている状況)

 濃い紫であれば必ずすべてで災害が起こるわけではありません.一方で、過去災害が起きた所では
多くの場所で「濃い紫」となっています.土砂災害危険度のデータ的には災害が起きてもなんら不思議ではない状況だったといえます.


 
 参考までに上の動画は西日本豪雨の時の気象レーダーと土砂災害危険度分布の変化ですが、広島県内では特別警報が発表される数時間前には広範囲で「濃い紫」のエリアが広がっていました.


 
 さらに今回の土石流が起きた熱海の渓流沿いの一帯は「土砂災害警戒区域」
指定されていました.


 
 「土砂災害警戒区域」は1999年の6.29豪雨災害で山の斜面に広がる住宅地で多くの犠牲者が出たことをきっかけに指定が始まったものです.急傾斜地(がけ崩れ)や土石流、地すべりの3つについて土砂災害が起きた場合に命に危険を及ぼすようなおそれがあるとされるエリアを「警戒区域」に指定します.さらに特に著しく危険が高いエリアは「特別警戒区域」に指定しています.広島県ではことし3月までに
県内すべての指定が終わっています.


 
 土石流で100%命を落とさないには「危険な場所にいない」に尽きます.ただ、すでに人が暮らしている場所では、そこに住まないという選択ができる人はそう多くないと思います.とはいえ土石流のおそれのある「警戒区域」や「特別警戒区域」にいるということは、ひとたび土石流が起こった場合、映像のようなことが起こる可能性がある場所に自分がいるという認識をしっかり持つ必要があると思います.

 市町からの避難情報だけに頼るのではなく、自らリアルタイムの危険度などの情報を取りにいって、先手先手で行動することが求められる場所だという意識を持ってもらえればと思います.



TOP