8月6日の原爆の日、広島は最高気温が38℃に達する猛烈な暑さでしたが、9日に台風9号が県内を通過後は、まるで"梅雨末期"に季節が逆戻りしたかのような天気が続いています.なぜこうしたことが起きているかは近いうちに気象庁や気象研究者などから分析結果が速報されると思うのでそちらに任せるとして、ここではお盆時期に降り続いた異例の大雨と過去に大規模災害を引き起こした大雨との雨の降り方を比較して、共通点や異なる点について簡単に触れてみたいと思います.



上の動画は8月8日0時〜18日24時までの西日本付近の気象レーダーです.前線による長雨となる前、広島県は台風9号の通過で、県の西部中心に大雨となりました.多い所では24時間で250ミリを超えるような雨量を観測.そして11日(水)以降は断続的に降り続く長雨によって記録的な雨量となっていきました.



気象庁は広島県内に30か所の雨量計を設置して観測していますが、県内にはそれ以外にも県や国などが設置している雨量計がたくさんあり、それらを合わせると約400地点の雨量データが広島県防災ウェブてリアルタイムに公開されています.地元の各局の天気コーナーを見ていると、気象庁のアメダスによる降水量しか紹介しないことがほとんどですが、特に大雨の際などは、こうしたきめ細かい実況のデータをもっと活用して解説に取り入れればいいのに、といつも思います.



今回の「台風9号の大雨」+「前線による大雨」で降った雨量を合計すると、特に広島市北西部から安芸高田市、北広島町あたりは10日間ほどで800ミリ前後の雨量を記録.広島市中心部から車で20分ほどしか離れていない祇園山本(安佐南区)の雨量計では1000ミリに迫っています.平年値と比較ができる気象庁の三入アメダス(安佐北区)でみても、1年間に降る雨量の実に半分ほどがこのお盆時期前後に降ったことになります.



広島にとってはこれだけの雨量が降ると大雨による災害は避けられません.今回の大雨による災害の発生は、13日(金)と14日(土)の2つに大きく分けられます.

13日(金)は広島市安佐北区あたりから北広島町、安芸高田市付近で特に被害が大きく、土砂災害や河川の氾濫や浸水被害が相次ぎました.

14日(土)はもう少し南側のエリア、広島市でも安佐南区や西区、佐伯区などを中心に土砂災害や浸水被害、河川の増水が各地で起こりました.



よく今回の大雨を表す言葉として「3年前の西日本豪雨を上回る記録的な大雨」とされることも多くなっています.西日本豪雨では特に広島市東部から東広島市南部や呉市にかけて雨量が多くりましたが、今回はそれよりはもう少し北西方向のエリアである広島市西部から芸北地域で特に雨量が多くなりました.8月8日〜18日までのトータルの雨量を見ると、県西部では西日本豪雨の際の同じ期間で1.5倍~2倍となっていて、確かに西日本豪雨を上回る雨量となっています.

一方で、今回の大雨によって起きた土砂災害の広がり方や規模は、3年前のような大規模で甚大な状況とはなっていません.その違いを生んだ要因の一つが「非常に激しい雨」が降ったタイミングでした.



まずは今回の大雨の降り方を見てみます.多治比(安芸高田市)の雨量計では、13日(金)午前中に一つ非常に激しい雨のピークがありますが、この非常に激しい雨が安芸高田市や北広島町、広島市安佐北区の被害の引き金となったとみられます.午前9時19分、気象庁は広島県に「線状降水帯発生情報」を発表しましたが、それまでの3時間に150ミリ程度、1時間70~80ミリの非常に激しい雨が被害が大きかったエリアでは観測されていました.

翌14日(金)に土石流が起きた安佐南区山本に近い祇園山本(安佐南区)の雨量計を見てみると、期間中に1時間50ミリ以上の非常に激しい雨は観測されていません.ただ12日以降、コンスタントに強い雨が降り続き、特に13日後半以降は切れ目なく1時間10~20ミリの雨量を観測しています.これによって累積の雨量が記録的な値となり、耐えられなくなった山では土石流やがけ崩れが相次いだとみられます.



では西日本豪雨の時はどのような降り方だったのでしょうか.3年前も今回と同じようにダラダラと雨が降り続いていましたが、累積の雨量が多くなってきたところで、最後に1時間60~80ミリの非常に激しい雨のピークが2回(7月6日夜、7月7日未明)やって来ました.この非常に激しい雨は線状降水帯がもたらしたとされていますが、この2階のピークが通過していった場所では広範囲で大規模な土砂災害や河川の氾濫、浸水被害が頻発する結果となりました.

ちなみに7年前に広島市安佐南区や安佐北区の狭い範囲で77人が犠牲となった広島土砂災害では、先行雨量はそれほどではありませんでしたが、何しろ1時間100ミリを超える猛烈な雨が夜中に2時間近く同じ場所で降り続いたために土石流が頻発して甚大な被害となりました.

災害の規模はトータルの雨量だけで決まるものではなく、それ以上に「非常に激しい雨のピークがあるかないか」または「どのタイミングで非常に激しい雨が降るか」が大きなカギを握っています.広島で大規模な土砂災害が起こる時の雨の降り方は、この2つのパターンのどちらかであることが多くなっています.今回の大雨は確かに「西日本豪雨を上回る大雨」ではありますが、広島にとって最も悪い2つのパターンのような降り方ではななかったため、3年前のような大規模かつ甚大な被害が出るまでには至りませんでした.(とはいえ現状でもかなりの被害が出ているのは確かなのです)



ただこれは「たまたま非常に激しい雨のピークが最後に来なかっただけ」と強く感じます.15日(月)未明には非常に発達した雨雲が通過した三原市や大崎上島町では1時間60ミリ超の非常に激しい雨を観測し、県東部では浸水被害が相次ぎましたが、もしこれが県西部にかかっていたら、おそらく今以上に大きな土砂災害が起きていたかもしれません.気象台は14日(日)朝以降は「過去の重大な災害に匹敵する極めて危険な状況」だとして最大限の警戒を呼び掛けていましたが、まさに紙一重な状況だったと感じています.



週間予報をみると、今週は水曜以降に晴れマークが増えています.ようやく"2回目の梅雨明け"を迎えそうですが、局地的な激しい夕立のような降り方には注意が必要です.上の2つの画像は2010年に庄原市を襲った局地的豪雨の際に起きた土石流の様子ですが、この庄原のケースでは非常に発達した積乱雲によって、半径数キロのごく狭い範囲ではありましたが猛烈な雨が降りました.県が設置した雨量計では、2時間で170ミリ、10分間雨量44ミリという凄まじい強さの雨が降り、局地的ながら土石流が頻発しました.発生数日後に自分も取材でRCCのヘリコプターに乗って上空から現場を見ましたが、山肌を爪でひっかいた様に至るところで崩れていたのを鮮明に覚えています.7月、8月とこれだけ記録的な雨量となっているため、お盆時期の異例の長雨が終わったあとでも注意してもらいたいと思います.



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